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研究内容

生命はどのように誕生したのでしょうか?約40億年前の原始地球において、非生命である分子から生まれたと考えられていますが、その痕跡はどこにも残っていません。私たちはこの「生命の起源」という謎に対し、単純な分子が生命へと進化していく一連の過程を実験的に再現することで、その理解を目指しています。例えばRNAなどの原初の自己複製体がどのように生まれたのかを探究しています。また自己複製する分子システムを進化させ、どのように複雑化して生命に近づいていくかを直接的に検証しています。様々な分子を組み合わせてありえた原始細胞のモデルを創出し、その特徴の理解も試みています。これらの過程で、合成生物学や進化工学、人工細胞に関するバイオ技術の開発も行っています。

研究のキーワード (一例)

生命の起源、分子、RNA、自己複製、進化、実験進化、構造、ゲノム、タンパク質、人工細胞、生命システム、無細胞翻訳系、再構成、創発、複雑性、ネットワーク、協力、寄生、生態系、液―液相分離、分子通信、多細胞

ありえた生命の起源過程と水内研の研究

現在、特に以下の3つの研究を進めています。

  1. 原始的な自己複製分子 (RNA) を探究する。
  2. 人工細胞 (生命のモデル) を試験管内で作る。
  3. 原始生命モデルを進化させる (実験進化)。

それぞれの研究は生化学実験を基本とし、情報科学・コンピュータを用いたアプローチと組み合わせて行います。生化学実験では主に分子生物学、進化生物学、生物物理学、合成生物学の手法を用いています。情報科学・コンピュータでは、バイオインフォマティクスと数理生物学を活用したビッグデータ解析 (大規模RNA配列解析・進化解析など) やシミュレーションを行っています。また、他大学との共同研究も積極的に行っています。

1. 原始的な自己複製分子 (RNA) を探究する

原始地球で生まれた最初の自己複製体はRNAとよばれる核酸分子だったと考えられています (RNAワールド仮説)。私たちは、(i) 自己複製するRNAが無秩序な有機物のスープからどのように生まれるかを探究し、(ii) その合理的な設計を試み、(iii) また進化させることで、生命の起源における第一歩を直接的に理解しようとしています。バイオインフォマティスの技術を用いて1000万種類以上の大規模なRNA配列のデータを扱うこともあります。

原始的な自己複製RNAの創発
[関連論文]
  1. Mizuuchi, R.*, Ichihashi, N. (2023). Minimal RNA self-reproduction discovered from a random pool of oligomers. Chemical Science, in press.
    プレスリリース:自己複製する最小のRNAを発見
  2. Mizuuchi, R.*, Blokhuis, A., Vincent, L., Nghe, P., Lehman. N., and Baum, D. (2019). Mineral surfaces select for longer RNA molecules. Chemical Communications, 55, 2090–2093.
  3. Mizuuchi, R.*, Lehman, N. (2019). Limited Sequence Diversity Within a Population Supports Prebiotic RNA Reproduction. Life, 9 (1), 20.
  4. Smail, B.A., Clifton, B.E., Mizuuchi, R.*, Lehman, N. (2019). Spontaneous advent of genetic diversity in RNA populations through multiple recombination mechanisms. RNA, 25, 453–464.

2. 人工細胞 (生命のモデル) を試験管内で作る

様々な特徴をもつ細胞をその部品から組み上げ、生命の仕組みを理解し、また原始生命モデルとして利用します。例えば (i) 単純な細胞モデルにゲノムやタンパク質を封入してゲノム複製する人工細胞を構築し、研究 (3) で進化させます。近年は (ii) 液―液相分離を利用して細胞膜を持たないより原始的な細胞を作ってその特徴を調べたり、(iii) (生命の起源とは別に) 人工的に多細胞を作り、多細胞現象の理解も目指しています。また人工細胞は「生きた細胞」では難しい物質生産や化学反応の場として利用でき、新規のバイオ技術開発にも繋がると期待もされています。

人工細胞
[関連論文]
  1. Mizuuchi, R.*, Ichihashi, N. (2020). Translation-coupled RNA replication and parasitic replicators in membrane-free compartments. Chemical Communications, 56, 13453–13456.
  2. Mizuuchi, R.*, Ichihashi, N.* (2021). Primitive compartmentalization for the sustainable replication of genetic molecules. Life, 11 (3), 191.

3. 原始生命モデルを進化させる

この研究では、進化する人工細胞を用いて、分子をどんどん進化させていきます。人工細胞には自己複製に必要な情報 (遺伝子) をもつRNAゲノムが入っており、エサを与えれば勝手に複製して進化します。特に原始的な生命システムがどのように複雑化していくかを検証しており、現在は (i) 進化によって新しい機能が生まれる条件、(ii) 進化が止まる場合の原因、(iii) 細胞構造の違いが生み出す進化の違いなどを明らかにしたいと考えています。シミュレーションも組み合わせて研究を進めることがあります。

原始生命モデルの実験進化
[関連論文]
  1. Ueda, K., Mizuuchi, R.*, Ichihashi, N.* (2023). Emergence of linkage between cooperative RNA replicators encoding replication and metabolic enzymes through experimental evolution. PLOS Genetics, 19 (8), e1010471.
  2. Mizuuchi, R.*, Furubayashi, T., Ichihashi N.* (2022). Evolutionary transition from a single RNA replicator to a multiple replicator network. Nature Communications, 13, 1460.
    プレスリリース:原始生命を模した自己複製システムのダーウィン進化による複雑化を発見
  3. Mizuuchi, R., Usui, K., Ichihashi, N. (2020). Structural transition of replicable RNAs during in vitro evolution with Qβ replicase. RNA, 26, 83–89.
  4. Mizuuchi, R., Ichihashi, N. (2018). Sustainable replication and coevolution of cooperative RNAs in an artificial cell-like system. Nature Ecology & Evolution, 2, 1654–1660.
    academist Journal: 生命の起源 – 原始的な複製体はいかに複雑化しうるのか?
  5. Mizuuchi, R., Ichihashi, N., Yomo, T. (2016). Adaptation and diversification of an RNA replication system under initiation- or termination-impaired translational conditions. ChemBioChem, 17 (13), 1229–1232.
  6. Mizuuchi, R., Ichihashi, N., Usui, K., Kazuta, Y., Yomo, T. (2015). Adaptive Evolution of an Artificial RNA Genome to a Reduced Ribosome Environment. ACS Synthetic Biology, 4 (3), 292–298.

早稲田大学 理工学術院
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